物流DX

数値目標で生産性を向上させる物流KPI|物流DX

物流KPI

この記事で分かること

  • 物流KPI、物流KGIとは何か、なぜ必要か?
  • どのような種類の物流KPIがあるか?どう使うか?

近年、物流業界でもデジタル化が進み、様々なモノの管理がシステム化されはじめています。

その背景には、人手不足への対応や、ECの普及による対応量の増加、さらに宅配の時間指定配送や再配達などの要因があります。さらに物流業界では、燃料価格の高騰などの課題にも対処しなければならない厳しい状況もあります。

このような状況を打開するためにも、物流業界では経営の効率化を図るために、数値目標であるKPIを導入するケースが増えています。今回は、物流KPIとはどのようなものなのかについて解説します。

物流KPIとは

組織の最終目標を表す指標をKGI(Key Goal Indicator)といい、このゴールに寄与するプロセスの数値目標をKPI(Key Performance Indicator)といいます。定点観測的にKPIの数値を確認することで、ゴールに向かって正しく進めているかを確認することができます。

例えば、物流事業での「利益増加」をゴールとして3%の利益向上をKGIに設定したとします。すると、KPIでは3%の利益向上に寄与する指標が該当します。「燃費向上」や、無駄なく車両に荷物を積む「積載率」や、「残業時間の低減」なども関係してきます。このようなKGIに寄与する各種指標がKPIとなり、これらのKPIに対してもどの程度の向上が見込めればKGIの3%の利益向上につながるのか算出します。そこで算出された数値がKPIの目標値になります。

KPIの例

KPIの例

では物流におけるKPIは、どのようなものがあるのでしょうか。

一般的に物流KPIは、「コスト・生産性」、「運輸」、「品質・サービスレベル」、「物流条件・配送条件」の4つに分類されます。それぞれ、どのような数値をKPIとしているのでしょうか。代表的なものをいくつか紹介しましょう。

【コスト・生産性に関するKPI】

コスト・生産性に関するKPIでは、保管スペースが有効活用されているか、従業員数やライン数別にどれくらいの数量を対応できているか、一定数量ごとにどれくらいのコストがかかっているかを確認します。

●保管効率

「保管間口数÷総間口数」で算出します。倉庫・物流センターなどの保管スペースが、有効活用できているかを示す指標です。一般的に50~55%を目指します。

●庫内作業の人時生産性

「処理ケース数÷作業時間」で算出します。ピッキングや梱包などの、倉庫内作業における生産性を示します。従業別やライン別に算出して判断します。

●一定数量あたりの物流コスト

「物流コスト÷出荷数量」で算出します。商品の一定数量あたりの物流コストを計測する指標です。販売店における客単価と同様のイメージで使用します。

【輸送に関するKPI】

輸送に関するKPIでは、トラックの輸送車両が、どの程度効率的に稼働できているかを確認するために使用されます。無駄が見つかった場合は、ルートを統合するなど調整して効率を上げていきます。

●実車率

「実車距離÷走行距離」で算出します。走行車両が、荷物を乗せて走っている距離の割合です。貨物を無いムダな走行を軽減するための指標です。実車率が低いルートは、他のルートとの統合を検討します。一般的には、70%以上が目安とされています。

●実働率

「実働日数÷営業日数」で算出します。営業日数の中で、車両がどれくらい稼働しているかを表す指標です。適切な車両数を検討するための指標として用いられます。一般的には、70%程度が目安とされています。

●積載率

「積載数量÷積載可能数量」で算出します。どの程度無駄なく荷物を積めているかを示した指標です。顧客別、ルートごとなど様々な観点から算出して、無駄なルートを見つけ出して統合させるなどの対応で使用します。一般的には、40%程度が目安とされています。

【品質・サービスレベルに関するKPI】

品質・サービスレベルに関するKPIは、誤出荷などのミスや、遅延・時間指定違反などの各種クレームなどの状況を把握するために使用されます。このKPIでは数値が悪かった場合に、原因を探すことでミスの軽減や対策が講じられ、生産性の向上につながります。

●棚卸差異

「棚卸差異(実際の在庫数-帳簿上の在庫数)÷帳簿上の在庫数」で算出します。データ上の在庫数と実際の在庫の数量の乖離がどの程度なのかを把握します。乖離が大きい場合には、作業ミスや誤出荷の発生が懸念されます。一般的には、5%までが目安とされています。

●誤出荷率

「誤出荷件数÷出荷指示数」で算出します。数量違いや出荷先間違いなどの誤出荷がどのくらい発生しているかを示します。一般的には、0.01%程度が目安とされています。

●遅延・時間指定違反率

「遅延・時間指定違反が起こった件数÷受注数」で算出します。納期に間に合わなかったり、時間指定に違反したりした割合を示します。一般的には、4%未満が目安とされています。

●汚破損率

「汚破損が起きた件数÷受注数」で算出します。商品が汚損・破損していたり、誤って不良在庫を発送してしまったりした割合を示します。

●クレーム発生率

「クレームが入った件数÷受注数」で算出します。上記のような各種理由によるクレームに顧客対応の悪さが原因のクレームなども加えた、クレーム全体の発生率を示します。一般的には、0.01%程度が目安とされています。

【物流条件・配送条件に関するKPI】

物流条件・配送条件に関するKPIは、物流拠点がどの程度稼働しているのか、配送時の無駄がどの程度あるかを把握する指標です。ルート別に管理すると、それぞれのルートの稼働状況が比較できます。

●出荷ロット

出荷物の数量や重量です。物流拠点の稼働状況を示す基本数量で、輸送効率や売上にもつながる数値です。

●配送頻度

「配送回数÷営業日数」で算出します。ルート別に配送頻度を計測し、多頻度納品の改善に活用します。

●納品先待機時間

納品先別の平均待機時間です。無駄な待機時間を減らすために活用します。

全国物流ネットワーク協会によると、バースでの待機平均時間は1時間45分となっています。

物流KPIを設定するメリット

上記のように、物流におけるKPIは様々な指標があります。

これらのKPIを活用するメリットは、どこにあるのでしょうか?

もちろん、KPIを改善することにより、ゴールとなるKGIの改善につながります。ただ、それ以外にも、下記のような3つのメリットが存在します。

1.問題点の可視化

これまで紹介した各種KPIは、物流業務の健康診断を意味しています。

物流は拠点数も多く業務プロセスも複雑です。そのため、管理者がすべての現場の状況を把握することも難しくなってきています。だから健康診断的に様々な指標で状況を可視化し、どこに問題があるのかを明確にする役割があります。

問題点の可視化は、改善を進めるための重要なポイントですから、原因を特定して改善へ結び付けることも大切です。

2.コミュニケーションの促進

物流はモノの移動をともない、対応エリアが広範囲に渡る業務です。業務内容も担当業務により専門的になります。サプライチェーンも、委託先の倉庫会社・運送会社など多岐にわたります。業務改善を進めるには、このような多様な関係者と現状認識を共有する必要があります。そのためにも、具体的数値で扱われるKPIが重要になるのです。委託先などと話をする際に、漠然と「状況はいかがですか?」という会話をするよりも、「KPIの特定の数値が芳しくないのですが、何か思い当たる状況はありますか?」という会話をしたほうが、明確な返答が期待できます。

3.合理的で公平な評価

KPIは組織視点で見ると「健康診断」となります。一方で、現場従業員の視点で考えると、大切な指標は「努力が評価されること」となります。しかし物流の業務は、上長がすべての現場に目を配るのは難しいものです。その中で人事評価を行うためには、客観的な情報が必要となります。そこで活用されるのがKPIとなるのです。

どれだけ生産性が向上したのか、どれだけミスやクレームが軽減したのか、どれだけ配送効率が上昇したのか、その改善の裏には必ず現場の努力があります。そこを評価することで、現場のモチベーションも上がるのです。

物流KPIを活用する際のポイント

物流KPIを活用するポイント

これまでKPIを設定するメリットを解説してきましたが、KPIは単に数値を算出するだけでは意味がありません。最終的にはKGIのゴールとなる目標を達成するために、KPIが目標値に達しているのか、達していないなら何が問題なのかを確認し、改善する必要があります。最後にKPIを活用するに際して、おさえておきたいポイントを解説しましょう。

【利用目的の明確化】

KPIの各指標は単なる数値です。

それらの数値を「どのように判断するか」が重要となります。そのため、KPIの利用目的を明確にすることが大切です。物流KPIの利用目的としては、KGI達成のための指標であるのはもちろんですが、「業務効率改善」や「荷主と連携した物流改善」また「社会的責任の観点からの評価」なども考えられます。

どのような目的で、どの指標の目標値をどの程度にするのかを検討してください。

【PDCAサイクルの構築】

KPIは、定期的に健康診断のように使用する数値です。

その数値にもとづいて、サプライチェーン全体の中で「どの部分がどのような状態にあるのか」を把握します。そのためにPDCA(Plan・Do・ Check・Action)という業務を効率的に進めるための一連の流れで、業務改善を進める必要があります。

ゴールに向けて、どのような対策が必要なのかを考え(Plan)、その施策を実行(Do)し、その施策がうまくいっているかを確認(Check)し、足りていない部分を改善(Action)するというものです。

【サプライヤーとの連携】

自社でPDCAサイクルを回せるようになったら、次はサプライヤーを含めてのPDCAを回しましょう。物流は様々なサプライヤーとの協力が不可欠な業務です。自社の業務だけを改善しても、物流全体の業務改善が実行される訳ではありません。荷主や発注先の配送業者など、サプライヤー全体でKPIを共通指標として会話することで、明確な数値目標に対する改善策が議論できるようになります。

まとめ

物流KPI(Key Performance Indicator)とは、コスト・生産性・品質などに関する業務改善に必要なデータ・指標を用いる管理手法のこと。定期的に実施する健康診断の数値のようなものです。

コスト・生産性に関するKPIでは、保管スペースが有効活用されているか、従業員数やライン数別にどれくらいの数量を対応できているか、一定数量ごとにどれくらいのコストがかかっているかなどを確認します。

輸送に関するKPIでは、トラックなどの輸送車両が、どの程度効率的に稼働できているかを確認するために使用されます。無駄が見つかった場合は、ルートを統合するなど調整して効率を上げていきます。

品質・サービスレベルに関するKPIは、御出荷などのミスや、遅延・時間指定違反などの各種クレームなどに対する状況を把握するために使用されます。数値が悪かった場合に、原因を探すことでミスの軽減や対策が講じられ、生産性の向上につながります。

これらのKPIは、問題点を可視化し、サプライヤーとのコミュニケーションを促進してくれます。また、従業員の合理的で公平な評価にも役立つため、業務改善の共通指標として有効的に利用されます。

KPIを活用する際には、利用目的を明確化した上でPDCAサイクルを構築し、サプライヤーとの連携を図ることが大切です。

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