物流基礎

エシェロン在庫とは?サプライチェーン全体を効率化するエシェロン在庫|最新技術

エシェロン在庫

この記事で分かること

  • エシェロン在庫とは何か、なぜ必要か?
  • エシェロン在庫を使って在庫管理を改善させる方法
  • ブルウィップ効果とは何か?

一般的に「在庫」と言えば、店舗や物流拠点などに存在する在庫数をイメージすると思います。しかし

商品が製造されて、店頭まで運ばれるまでの流れを考えると、トラック・航空機・船舶などで輸送途中にある「流通在庫」も存在するため、各拠点における在庫だけを見ていると、想定と異なる過剰在庫が発生する可能性がでてきます。

では、そのような想定外を防止するには、どのような発想が必要なのでしょうか。

そこで登場するのが、サプライチェーン全体を効率化する「エシェロン在庫」という考え方です。今回は、「エシェロン在庫」とは何か、どのような特徴があるのかなど解説します。

エシェロン在庫とは

エシェロン在庫

エシェロン在庫とは、「特定の物流センターや店頭などの拠点在庫」のことではなく、「特定拠点から下流のサプライチェーン全体の在庫」の総数のことを指します。

物流は、工場などの川上から店舗などの川下へモノが流れていきます。

川の中流には、物流拠点などが複数存在するなど、「在庫」は川の至る所に存在します。

そのため、どこの拠点から見るかで、在庫のカウント数が変わってきます。

エシェロンとは「階層」という意味です。各階層となる物流センター、配送センターや小売店舗などの各拠点での在庫総数だけではなく、その間に存在する階層つまりトラック・航空機・船舶などで輸送途中にある「流通在庫」も加えるのが、「エシェロン在庫」の考え方です。

下図のように、工場から3つの配送センターを経由して6つの店舗に製品を配送しているケースで、エシェロン在庫を確認してみましょう。

【質問】

配送センターBの現時点におけるエシェロン在庫量は、いくつになりますか?

「配送センターBの現時点におけるエシェロン在庫量」は、配送センターBも含めた、それよりも下流に位置する店舗の在庫量と配送中の量を合計した総量となります。

つまり、上図の色のついた部分の下記の総量となります。

・配送センターBの在庫数:50

・店舗Cへ輸送中の数量:25

・店舗Dへ輸送中の数量:30

・店舗Cの在庫量:30

・店舗Dの在庫量:40

配送センターBの現時点におけるエシェロン在庫量=50+25+30+30+40=175

このように計算するのが、エシェロン在庫となります。

拠点別在庫管理の欠点

「在庫管理」を拠点別に行った場合は、上記の表における「在庫数」だけがカウントされます。「輸送中」の数量や、特定拠点より川下の在庫数はカウントされません。

例えば、店舗での「在庫管理」をイメージしてみましょう。

上の表では、店舗Fの在庫は20となっています。しかし、店舗Fへ輸送中の商品は50あります。仮に、その輸送中の50件のことを把握せずに、さらに50件の発注をしてしまったら、店舗Fでは過剰在庫とならないでしょうか。

同様に、配送センターCでは現在在庫は30です。川下の店舗EとFに在庫数を確認すると、「店舗E に30と店舗Fに20の合計50しかない」という返答になりました。そこで、追加発注をしなければと考えますが、実際は上記のように店舗へは輸送中の商品があります。さらに工場から配送センターCへは、150の輸送中の商品があります。

もしこの「在庫数」だけで判断して、追加発注をかけてしまったら、配送センターCは在庫スペースを確保できるでしょうか。

このように、各拠点にある「在庫数」だけで考えると、誤った判断を引き起こす可能性があるのです。

在庫トラブルを引き起こすブルウィップ効果

消費者から遠いサプライチェーンの川上では、川下よりも需要動向の変化が増幅されて伝わる「ブルウィップ効果」という現象があります。ブルウィップ効果を理解するには、まず安全在庫について知る必要があります。需要が正確にわからない場合、企業は余裕を持たせて大目に在庫を持つことがあります。これを安全在庫といいます。先ほどと同じ例で、川上に行くほど安全在庫が増幅する様子を見てみましょう。話を簡単にするため、「各拠点は、直近の注文の2倍の安全在庫を確保しようとする」と仮定します。

まず、まず各店舗に20ずつ注文が入ります。輸送中の在庫に気づかないので、各店舗は在庫がそのまま20減ると計算します。例えば、店舗Eは在庫が10になると計算します。したがって、直近の注文20の2倍=40の安全在庫を確保するには、40-10=30の発注を配送センターにかけなくてはなりません。結局、配送センターAには0、配送センターBには50、配送センターCには70の注文が入ります。配送センターもエシェロン在庫を把握していないので、例えばセンターCは70の注文によって、在庫が40不足すると判断します。よって直近の注文70の2倍=140の在庫を確保するには、140+40=180の発注をかけなくてはなりません。最終的に、工場への注文は配送センターAが0、配送センターBが100、配送センターCが180で、合計280となります。確かに、店舗への注文の合計120にくらべ、工場への注文は280に増幅しています。これは各店舗、配送センターの安全在庫が積み重なっていくからです。このように、「川上に行くほど各レイヤーの安全在庫の見積誤差が積み重なる」ことがブルウィップ効果の一因となっています。これにより、在庫管理が不安定になり、過剰在庫・過少在庫の問題が発生します。

エシェロン在庫によるブルウィップ効果の軽減

「エシェロン在庫」を使うと、上記計算のように、在庫管理の際に拠点単体の「部分的な最適解」ではなく、そこから下流の「全体としての最適解」を見つけることができます。

ある拠点で在庫が足りなくなった際にも、輸送中の在庫に気付けば追加発注せずに、輸送中の商品の到着を待つことができます、また輸送中の数量でも足りないような場合も、他の拠点で輸送中の数量を確認して、足りない拠点へ回す判断も出来るようになります。先ほどの例では、もし各配送センターがエシェロン在庫を把握していたら、工場への注文は280よりもずっと少なくなるはずです。

このように「エシェロン在庫」を活用することで、メーカーから物流拠点を経由して店舗に至るまでの各段階に在庫を分散させ、サプライチェーン全体を効率化させることを「マルチエシェロン在庫最適化」といいます。

ブルウィップ効果_エシェロン在庫

当サイトでは、ブルウィップ効果を軽減する別の手法として、「ブロックチェーン活用」を紹介しています。そちらも併せてご確認ください。

ブロックチェーン記事へ

エシェロン在庫を活用するために対応すべきこと

このように、「エシェロン在庫」を活用すると、ブルウィップ効果が軽減されるため、川上のメーカーなどでは重要な判断材料となります。

ではこれまでに、ブルウィップ効果が影響したケースには、どのようなシーンがあったのでしょうか。自然災害などの影響で供給不足が生じたときが、イメージしやすいと思います。

大地震や台風などの自然災害が発生した場合、各サプライチェーンが過剰に反応して在庫を確保しようと一気に発注をかけるケースが見受けられます。その際、最上流のメーカーでは、一気に大量の注文が入ったものの、その後は全く注文がなくなってしまうことがありました。

その結果メーカー側では、災害復興後も過剰在庫を抱えてしまうなどのケースも出てきます。そのため、サプライチェーン全体における各段階での在庫を開示することが重要になってきます。卸売業、小売業、メーカーでそれぞれ情報を開示し、共有する必要があるのです。

この他にも、想定外にSNSで情報が拡散されてヒットした商品も同様です。販売店では瞬発的に在庫がなくなりますが、瞬発的に話題になった商品が、話題性を持続できるとも限りません。サプライチェーン全体でどの程度在庫があるのか、最も効果的に流通させる方法はどのような方法なのかを検討し、増産が必要なのかをしっかりと見極める必要があります。

では、「エシェロン在庫」を活用するためには、どのような対応が必要なのでしょうか。

SCM(サプライチェーンマネジメント)により、各サプライチェーンを情報システムで連携することで、最終顧客の需要動向をリアルタイムに川上事業者へと展開する方法があります。そのためには、サプライチェーン全体を管理するシステム「SCMシステム」が必要となります。導入するには、自社物流に適したシステムを選ぶ必要があるため、ソリューションを提供しているベンダーへ相談してみることをおすすめします。

サプライチェーンマネジメントの記事へ

ただシステム連携を異なる企業で対応するのは、難しい場合もあるでしょう。これを経営視点で考えた場合には、買収・合併などにより、川上事業者と川下事業者を統合するという発想も考えられます。

棚卸差異率で誤出荷対策も

これまで「エシェロン在庫」について、サプライチェーン全体の正しい在庫数の把握というメリットについて説明してきました。そこで最後に、在庫が正確に把握できているかを確認する方法について説明しておきましょう。

在庫数が正しいかを確認するには「棚卸」が必要です。

その「棚卸」で、帳簿上と実際の在庫数が合わない場合の数量の差を「棚卸差異」と呼びます。そして、実際の在庫数と帳簿上の在庫数の差異の割合が「棚卸差異率」です。下記の数式で計算します。

棚卸差異率=(実際の在庫数-帳簿上の在庫数)/帳簿上の在庫数

例えば、帳簿在庫の数は900個、実際の在庫数が1,000個とすると、(1000-900)/900 = 0.11となり、この場合の在庫差異率は11%となります。

一般的に「棚卸差異率」は、5%が許容範囲といわれています。

これよりも大きい場合は、作業上のどこかにミスの発生しやすいポイントがあると考えられます。下記のようなポイントでミスが発生していないかを確認し、ミスが頻発しているようであれば、ワークフローを確認し対策を講じてください。

●検品ミス

商品を倉庫に入庫する際の「検品ミス」は、商品のサイズや色などのSKUのチェックミスで発生しやすくなります。事前に入荷予定リストを作成し、SKUまで含めた入荷予定商品と入荷商品の差異をしっかりと確認しましょう。

●入力ミス

入荷した商品を在庫管理システムに登録する際、手入力で登録すると入力ミスが発生する可能性があります。バーコードリーダーを活用して検品を行うなど、なるべく手入力の作業を減らすことが、ヒューマンエラーの防止につながります。

●伝票の処理漏れ

入出庫処理を伝票で行う場合は、作業前と作業後に処理漏れの有無をしっかりとチェックしましょう。また、処理済みの伝票も内容が正しく反映されていることを確認しましょう。

●伝票遅延によるタイムラグ

納品書や請求書の到着が遅れ、商品の入庫が先に行われた場合、棚卸差異が発生する可能性があります。例えば、入荷伝票の到着が遅れ、入庫処理が行われる前に出荷の引き当てが行われた場合です。正しいワークフローでの作業を徹底して対策しましょう。

●棚卸のミス

棚卸作業において、棚卸当日にカウントミス(カウント漏れや二重カウント)があると、正確な実在庫を把握できません。このため、棚卸作業のミスを防ぐためにも作業手順や作業者ごとの作業範囲を明確にし、そのルールを守らせることが大切です。

このような棚卸差異を減らすには、ヒューマンエラーの防止が必要です。

そのため、「在庫管理システム」の活用が役に立ちます。在庫管理システムとは文字通り「在庫を管理するためのコンピュータシステム」です。下記に、詳細な解説記事がありますので、そちらをご確認ください。

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まとめ

「エシェロン在庫」とは、「特定の物流センターや店頭などの拠点在庫」だけではなく、「特定拠点から下流のサプライチェーン全体の在庫」の総数のことを指します。物流センター・配送センターや小売店舗などの各拠点での在庫総数だけではなく、トラック・航空機・船舶などで輸送途中にある「流通在庫」も加えられます。

「エシェロン在庫」を使うと、拠点単体の「部分的な最適解」ではなく、そこから下流の「全体としての最適解」を見つけることができます。そのため「エシェロン在庫」を活用すると、メーカーから物流拠点を経由して店舗に至るまでの各段階に在庫を分散させて、サプライチェーン全体を効率化させることができるのです。この発想は「マルチエシェロン在庫最適化」と言われています。

「エシェロン在庫」を活用するためには、SCM(サプライチェーンマネジメント)により、各サプライチェーンの情報の伝達を情報システムで連携することで、最終顧客の需要動向をリアルタイムに川上事業者へと展開する方法があります。これを経営視点で考えた場合には、買収・合併などにより、川上事業者と川下事業者を統合するという発想も考えられます。

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