先端技術

宅配を全自動化するケースもスマートシティで物流はどう変わる?

スマートシティ

この記事で分かること

  • スマートシティとは何か?
  • 世界のスマートシティプロジェクト
  • スマートシティにおける物流はどう変わるか?

近年AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動きが進んでいます。

モビリティ分野でも、自動運転車やドローン技術が発展することにより、移動手段の概念はこれまでと大きく変わります。ただ既存の都市インフラの中では、安全面から自動運転車やドローン技術をフルに活用するのが難しい状況もあります。

そのような課題を改善し、利便性の高い都市づくりを目指す取り組みが進んでいます。それが「スマートシティ」です。

今回は「スマートシティ」とは何か、「スマートシティ」で物流がどのように変化するのかをお伝えします。

スマートシティとは

スマートシティとは、デジタル技術を都市インフラに活用して、企業や生活者に対する利便性・快適性の向上を目指す都市のことです。かつての都市開発が建物を中心としたハードウェア発想の計画だったのに対し、スマートシティは企業や生活者の利便性・快適性にデジタル技術で柔軟に対応するソフトウェア発想の都市設計となります。

例えば物流視点で考えると、スマートシティでは自動運転車やドローン宅配が実用化され、道路に渋滞はなく、宅配はスマートシティ内の物流センターで自動仕分けされ、自動運転ロボットやドローンが無人で配送するような完全自動化された世界を目指しています。

ただスマートシティは、プロジェクトによって目的が異なるため、スマートシティのすべてが自動宅配になる訳ではありません。日本国内のスマートシティプロジェクトでは、以下のようなプロジェクトが進んでいます。

【大都市型スマートシティ計画】

まずは大都市圏で進んでいるスマートシティプロジェクトです。

神奈川県横浜市の「横浜スマートシティプロジェクト」は、次世代エネルギーを活用した低炭素社会システムを目指しています。東京都渋谷区の「渋谷スマートシティ」は住民のウェルビーイング(幸福・⼼の豊かさ)の向上や多様性に対応した街づくりを目指しています。北海道札幌市の「DATA-SMART CITY SAPPORO」はICTを活用した健康長寿社会の実現を目指しています。

【地方都市型スマートシティ計画】

また地方都市においても、スマートシティプロジェクトは進められています。

兵庫県加古川市の「加古川スマートシティプロジェクト」では、⼈⼝減少・少⼦⾼齢化による⼈⼝構造の変化、公共施設や社会インフラの⽼朽化、ごみ減量といった環境問題への対応を目指しています。そして、静岡県裾野市の「ウーブン・シティ(Woven City)」は、自動車メーカーの工場跡地を活用してゼロから新しいインフラから整えるプロジェクトが進められており、ここでは前述の宅配の自動化・無人化が進められています。

スマートシティが注目される理由

現在スマートシティは、国内外で多数のプロジェクトが進められています。注目される理由は、どこにあるのでしょうか。

大きな要因は、時代の変化に対応できる最新技術を活用した柔軟性です。

従来の都市計画は、建物を中心としたハードウェア発想だったため、時代の変化に応じて都市機能を大きく変えるには、再開発で建物を壊して建て替えるといった手法が必要でした。

しかしスマートシティは、都市が抱える様々な課題にソフトウェア発想で柔軟に対応した持続可能な社会を目指しています。時代の変化に対応できる柔軟性は、多様な価値観やニーズに合わせた生活が提供できるようになるとも考えられています。

また、既存都市の課題解決も検討が進んでいます。

現在、都市部への人口集中は、交通渋滞の増加や大気汚染といった問題の原因にもなっています。しかし「通勤ラッシュ」という都市特有の問題は、「テレワーク」という技術が解決の糸口を見出しました。それと同じように、交通渋滞やそれに伴う大気汚染も、交通インフラをゼロベースで考えることで解決を目指すスマートシティも出てきています。自動運転の電気自動車が自動車専用の地下道を移動し、歩行者と分離することで渋滞や廃棄ガスもなく交通事故も防止できるような計画も検討されています。

さらに、エネルギー問題への対応も検討されています。

現在、都市のエネルギー消費は、温室効果ガスの60~70%を排出しているとも言われているため、スマートシティでは環境へ配慮したエネルギー変革が検討されています。企業・自治体が所有する生産設備や自家用発電設備、蓄電池やEV(電気自動車)など、地域に分散しているエネルギーリソースを相互につないで、ひとつの発電所のように機能させるVPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)といった仕組みの検討が始まっています。

このように最新技術を活用して、これまでとは異なる新たな発想の街づくりを行い、住民の利便性・快適性に寄与する街づくりに切り替えていくことが、スマートシティの魅力であり、注目される理由です。

スマートシティの最新事例

では最新のスマートシティは、どのような機能を持った都市なのでしょうか。

スマートシティが目指す方向性は、そのプロジェクトごとに異なります。そのためここでは、物流業界で活用が進む自動運転車やドローンの先端事例として、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイのスマートシティ事例を紹介します。

UAEのドバイは「世界一のスマートシティ」を目指して、都市全体をICTインフラで整備しています。官民問わずあらゆる情報をインターネット上で利用できる環境整備が急速に進められ、インターネットで24時間365日、休日や夜中でも行政サービスが利用可能で、公共サービスの完全なペーパーレス化が進められています。

その中でドバイの交通当局は、2030年までに交通手段の25%を自動運転にする目標を掲げています。そのため2018年からドバイ市内では、自動運転のEV(電気自動車)バスのテスト走行や、自動飛行するマルチコプター(複数のロータを搭載したヘリコプターの一種)を使った「空中タクシーサービス」の導入も進んでいます。渋滞のない快適な交通インフラとして、減圧したチューブ内を車両が空中浮上して時速1,220kmで進む「Hyperloop」の採用も検討が進んでいます。

この「Hyperloop」が実現すれば、自動車で90分程かかるドバイ-アブダビ間が約12分に短縮でき、1時間に1万人を輸送できると言います。このようなモビリティ環境が整備されれば、物流機能も今とは大幅に異なる環境が目指せます。

さらにドバイ警察は、ドローンを搭載した自動運転車のパトカー導入を進めています。

高精細カメラや赤外線画像装置、レーザスキャナ、光検出測定装置などを搭載しており、容疑者を検知したら自動運転で追跡します。車両が入れない路地や自動車で逃走した場合には、ドローンを飛ばしてさらに追跡する仕組みとなっています。ドバイ警察では2030年までに、パトロールや道案内といった警察の定型業務はロボットや自動運転パトカーに置き換えていき、警察業務の25%を自動化する計画としています。

これが、近未来の物流の世界にも関連する、最先端のモビリティ計画を有するスマートシティの事例です。

スマートシティにおける宅配業務

これまでスマートシティがどのようなもので、人々の暮らしをどのように変えるのかについて紹介してきました。最後に、スマートシティにより、物流がどのように変化するかについて紹介します。

物流における宅配自動化の最前線が、静岡県裾野市のスマートシティプロジェクトで始まっています。

静岡県裾野市の「Woven City」プロジェクトは、自動車メーカーの広大な工場跡地に作られるスマートシティです。まっさらな土地に、ゼロベースでインフラを整備できるからこそ、高度なシステムが構築できます。

ここでの物流システムは、物流の自動倉庫を逆再生するような工程が設計されています。

「Woven City」内に届く荷物は、すべて全自動の物流センターに集められます。センター内では、荷物が配達エリアごとに自動で分類され、自動運転の宅配ロボットに自動で積み込まれ、届け先まで配達します。その際に自動運転ロボットが走行するのは、地下の専用通路です。

「Woven City」には、3つに分類された「道」が存在します。

1つ目の道は、自動運転車をはじめとするスピードが速い車両専用、2つ目は歩行者とゆっくりと走るパーソナルモビリティが共存する道、3つ目は公園内のような歩行者専用の道となります。

この地下の専用通路を走行して届け先に到着したら、「スマートポスト」に届けます。この「スマートポスト」を活用することで、不在による再配達が不要となります。

また「スマートポスト」は、荷物を受け取るだけではありません。

荷物の集荷を依頼する際にも、スマートポストに荷物を入れて、集荷の依頼をすれば、自動運転ロボットが無人で集荷します。この集荷の仕組みを、家庭ごみの収集にも応用できないかという検討も進められていると言います。

この完全自動の物流システムを開発するために現在は実験設備が構築され、実際の運用シミュレーションが行われています。

このようにスマートシティでは物流業務の完全自動化を進めている事例もあり、新たな物流の世界を目指して進化し続けているのです。

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