●物流基礎
効率的な輸送「ミルクラン」とは|物流基礎
この記事で分かること
- ミルクランとは何か、なぜ必要か?
- ミルクランの導入方法・活用事例
効率的な輸送方式として注目されているミルクラン。
従来の配送方式では、1サプライヤーにつき1台のトラックが必要で、それぞれに調達・輸送コストが発生していました。しかしミルクランでは、発注者側がトラックを手配して各サプライヤーを巡回するので、コストの削減が期待できます。この記事では、ミルクランの概要や導入するメリット・デメリットをご紹介します。輸送効率をさらに向上させるポイントも合わせて解説します。
目次
ミルクランとは
ミルクランとは、発注者側が複数のサプライヤーを巡回し、部品や原材料を取りに行く集荷方法のことです。牛乳メーカーが原料となる生乳を調達するために、各牧場を巡回して集荷することが名称の由来となっています。通常の物流では、受注者である部品や原材料のメーカーが商品を納品しますが、発注者側が集荷するのがミルクランの特徴です。そのためミルクランは「引き取り物流」ともいわれており、サプライヤーから仕入れた物資の価格に輸送費が加算されないことがメリットの一つです。
近年では特に、貨物を積載せずに稼働しているムダな空運搬を可能な限り削減するべきという考えが広まっています。空運搬をしている間も人件費や燃料費を発生してしまうため、発注者側が積極的にコスト管理しやすいミルクランが注目されています。発注者側の運搬車1台が複数の集荷先を最適なルートで巡回することで、空運搬を限りなく削減でき、コスト抑制に期待されています。
国内では自動車産業や家電業界での普及が目立っており、大手自動車メーカーのトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)もミルクランを導入している企業の一つです。トヨタ自動車では、ドライバーの作業負担の軽減および環境負荷の低減を目的に、2020年9月より東海地域にて「引き取り物流」を開始しました。その結果、約12%の輸送効率化と、約6%のCO2排出量削減を実現しています。
最近では他業種でもミルクランを導入する企業が増えているため、今後も輸送効率化の流れは様々な業種に広がっていくでしょう。
ミルクランを導入するメリット
続いて、ミルクラン導入によるメリットをご紹介します。
輸送効率が上がる
複数の集荷先を巡回することで、サプライヤーごとに1台のトラックで輸送するより積載率が向上します。また、納入物資の検品作業を一度にまとめて行えることもメリットといえます。輸送効率に加えて業務効率の改善も期待できます。
ある自動車メーカーがミルクランを導入することで、8%の輸送の効率化とCO2排出量削減が期待できると発表しています。
調達コストを削減できる
発注者側で手配した運搬車がサプライヤーを巡回して集荷するため、部品や原材料の調達コストから輸送費分を安くできます。さらにミルクランによる「引き取り物流」であれば、トラックが1台で済むため輸送コストが軽減できます。
コストの内訳を把握できる
サプライヤー側の輸送対応が不要になるため、部品や原材料のコストに含まれていた輸送コストを分離し、純粋な本体価格を把握しやすくなります。これにより原価の低減活動も行いやすくなるため、商品をより安価で提供できるようになったり、さらなる付加価値を加えるための資金を生み出せます。
ジャストインタイム(JIT)で調達できる
ミルクランを導入すると、発注側が「必要なものを必要な時に必要な分だけ」輸送するジャストインタイムでの調達を目指せます。少量の発注を多数繰り返すと、サプライヤー側の輸送負担が増えて、輸送費用がかさんでしまいます。しかし発注側が各サプライヤーを巡回するミルクランでは輸送回数を気にせず、「必要な分だけ」調達することが可能です。ムダな発注がなくなることで、在庫を管理するために必要なスペースや人件費の改善にもつながります。
工場内の安全性が向上する
搬入する運搬車の台数が減るため、工場や倉庫内の安全性が向上します。車両の出入りが多いほどトラブルの発生率は高くなってしまうため、運搬車1台の巡回で集荷できるミルクランには安全性向上のメリットがあるといえるでしょう。さらに、運搬車の稼働台数が減るとCO2排出量を削減できるため、環境面においても有用な配送方式です。
ミルクランはどうやって導入する?
ミルクランの仕組みづくりは簡単ではありません。
サプライヤーの出荷場所がどこに存在し、日々どのくらいの量の部品や原材料を取りにいけばいいのか、加えて、サプライヤーに一任している納品を、自社主導のミルクランに切り替える場合、どの程度のコスト削減が見込めるのか、緻密なロジスティクスシュミレーションが不可欠になります。
このような場合に、ミルクランを外部の物流会社に委託することができます。
供給側の出荷場所や商品別の物量、集荷のタイミング、商品特性を十分に調査したうえでロジスティクス設計を行ってくれます。
ミルクランサービスを提供している物流会社であれば、上記の設計部分から、搬入までのオペレーション業務まで一気通貫でサポートする体制を整えているので、自社完結でミルクラン導入が難しい場合は、一度問い合わせてみましょう。
導入費用については発注側の企業によって異なります。
前述したとおり、どのような荷物を何拠点どれくらいの距離で何時間で巡回するのか、という条件が出てこないと見積もれないため、一般的な相場価格を把握することは難しいと考えられます。
そのため、やはり導入を検討している場合、一度問い合わせてみる必要があります。
発注者が認識しておくべきミルクランのデメリット
導入を検討している発注担当者であればデメリットについても認識しておく必要があります。
ミルクランの導入が逆効果になってしまう条件の一つとして、発注元となる自社と集荷先のサプライヤーの立地が離れている場合や、巡回する各サプライヤー間の立地が離れている場合が挙げられます。このような場合は巡回ルートが設定しづらく、長距離のルートを経由することになれば、むしろ輸送コストが上がってしまう可能性があります。特定のサプライヤーのみ遠方にある場合は、サプライヤー側の発送に頼ることも検討すべきでしょう。
また、ミルクランは大型トラックで巡回することが一般的なため、工場や集荷場所が小さいと、そもそも入ることができないというケースもあります。とはいえ、小さいサイズのトラックで集荷しようとすると最大積載量が減ってしまうため、輸送効率が下がってしまいます。大型車両の受け入れが可能かどうか、事前に集荷先へ確認しておきましょう。
ミルクランの導入を検討するのであれば、集荷先の立地や貨物の物量、大型車両での集荷が可能かどうか確認し、十分にシミュレーションした上で判断することが必要です。
販売物流への活用事例
ミルクランは、部品・原材料の調達コストを削減できることが大きなメリットですが、「調達物流」だけではなく、業界によってはメーカーと卸売業者に対する「販売物流」に活用することもできます。販売物流への活用事例として、某大手運送会社(以下、A社)が提供しているミルクランをご紹介します。
A社では、アパレルメーカーとアパレルの卸業者に特化した商品のミルクランを提供しています。少ないロット数での多頻度納品を求められるアパレル業界では、関係各社への車両手配に業務負荷がかかることや、配送コストが高くなってしまうことが従来の課題でした。
そこで、A社は運送会社である自社が起点となって、点在するアパレルメーカー・卸業者を巡回し、商品を集約して納品する巡回集荷を提案。量販店物流センターへ納品する商品を共同配送することで、コスト削減を実現しました。牛乳メーカーが原料を調達するにあたり、各牧場を巡回したことが由来となっているミルクランですが、「販売物流」への活用も可能だということをA社の事例が示しています。
A社のミルクランによる共同配送は、アパレルメーカー・卸業者における利用社数が70社まで拡大しており、多くのアパレル業者の負担を解消しています。
ミルクランでさらに輸送効率を高める方法
ミルクラン導入による輸送の効率化について解説してきましたが、ここではさらに効率を上げるためのポイントを解説します。
サプライヤーとの連携を強化する
ミルクランは、巡回ルートに沿って決められた時間に集荷を行います。
そのため、事前に集荷する場所や時間、集荷量をサプライヤーと打ち合わせておくことが必要です。巡回する運搬車のドライバーが荷積み作業をしやすいように、駐車スペース付近へ貨物をまとめておくといった、集荷をより効率的に行うためのサプライヤー側の協力も不可欠です。連携体制を整え、限られた時間の中でスムーズに作業を行うことで輸送効率が高まります。
また、万が一集荷時間に間に合わなかった場合のイレギュラー対応や、報告体制を考えておくことも重要なポイントです。サプライヤー側で集荷物品の準備ができなかった場合の報告期限を設けることや、イレギュラー発生時の巡回ルートパターンを決めておくといった事前シミュレーションを入念にしておきましょう。
AIによる配送管理システムを合わせて導入する
近年は、輸送ルートや配車をAIで自動化し、GPSを活用してトラックの現在地を確認できるシステムも登場しています。AI技術を活用した配送管理システムの導入により、さらに効率がいい巡回ルートを決められます。AIによる配送管理システムをうまく活用すれば、ドライバーの経験やノウハウに頼らず、最適なルートの算出や集荷予定時刻を推算することが可能です。事前のシミュレーションが重要となるミルクランにおいて、AIは有用であるといえます。
また、イレギュラー発生時の適切な対応という点でも、AIの導入はおすすめです。災害や交通規制、サプライヤー側のトラブルによって巡回ルートを変更しなければならない場合にも、瞬時に安全かつ最短なルートを導き出せます。集荷先が多ければイレギュラー発生率も上がるため、関連するサプライヤーが多いメーカーほど、AI配送管理システムを導入するメリットは大きいといえるでしょう。
まとめ:ミルクランを導入して輸送効率の最大化を目指しましょう
ミルクランは、メーカーとサプライヤー間での空(から)運搬や低積載率によるムダを削減し、輸送コストを低減できる有用な集荷方法です。
また、ミルクラン導入におけるメリットは輸送コストの低減だけにとどまりません。調達する部品や原材料の純粋な本体価格を把握しやすくなることや、ジャストインタイムでの調達が実現しやすくなることも挙げられます。
ミルクランによって調達コストが低減した分だけ、メーカーは商品へのさらなる付加価値にコストをかけられます。物流の効率化が、消費者の元へ届く商品をより良いものにしていくキッカケともいえるのではないでしょうか。
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