●物流DX
グローバルサプライチェーンマネジメントの重要性|物流DX
この記事で分かること
- グローバルサプライチェーンマネジメントとは何か、なぜ必要か?
- グローバルサプライチェーンマネジメントの導入方法・活用事例
新型コロナウイルスへの各国の対応により、サプライチェーンの分断が発生しました。
ロックダウンで工場が閉鎖されたため、必要な部品や資材が届かずに、生産量の減少や生産を止めてしまうようなケースも発生しました。そのため、グローバルサプライチェーンマネジメントの重要性が語られています。
そこで今回は、グローバルサプライチェーンマネジメントとは何か、どのようなメリットがあるのかを解説します。
目次
グローバルサプライチェーンマネジメントとは
「グローバルサプライチェーン」とは、製品の原料や資材の調達から消費活動までに至るサプライチェーンが、国内だけではなく複数の海外拠点も含めて存在すること。その「グローバルサプライチェーン」をマネジメントする仕組みが、「グローバルサプライチェーンマネジメント(以下グローバルSCM)」です。
グローバルSCMは、グローバル展開するサプライチェーン全体の原材料や部品の調達から製造、流通、販売に至るまでのモノと金の流れを一元管理し、グローバル全体で最適化するためのマネジメントを行うことです。1か国だけのローカルSCMは、その国特有の業界標準に準拠したシステムを活用しますが、複数か国でまたがって使用されるグローバルSCMの管理システムでは、各国で同一のシステムを使用します。そのためグローバルSCMの管理システムは、多言語化や各国の業界標準に適用するようなグローバル対応されているのが特徴です。
グローバルSCMが必要な理由
グローバルサプライチェーンを有しながらも、サプライチェーンが各国のローカル内だけで管理されていると、サプライチェーンの全体最適ができません。例えば、A国で原材料が大量に余っており、B国では不足していたとしても、マネージメントが各国のローカルで閉じているため、A国からB国へ融通することなく、A国が処分してしまい無駄が生じるようなケースがあります。
しかしグローバルSCMで一元管理できていれば、各国の状況が把握できるため、グローバルな視点で無駄を排除することができるようになります。そのような、グローバルサプライチェーン全体の最適化を行うために、グローバルSCMが必要となるのです。
新型コロナウィルスのパンデミックでは、サプライヤーで部品や資材の調達が止まるといった大きな問題が生じました。ただ、今回のようなパンデミックは特別なケースと例外的に考えるのは危険です。パンデミックでない平時であっても、下記のような理由でグローバルSCMが必要と言われています。
【在庫数の最適化】
かつてグローバルSCMという発想がなかった頃は、欠品を避けるために大量の在庫を保有する対策法が使われました。しかし過剰在庫は、売れ残るリスクをはらんでいます。
そのため大量在庫に依存せずに、安定的に原材料や資材を確保できる体制の構築が求められてきました。サプライチェーン全体で原材料や資材そして在庫を最適化する取り組み、それがグローバルSCMです。
仮に在庫が適正化できないと、商品販売による収益も先が見通せなくなります。緊急的に原材料や資材を確保しようとすると想定以上のコストとなり、キャッシュフローが悪化する可能性がでてきます。キャッシュフローの悪化は、経営判断が鈍化するリスクをはらんでいるため、在庫数の最適化はグローバルSCMの最重要課題とされているのです。
【コストの削減】
また近年は気候変動や世界情勢の影響で、原材料や資材の価格・供給状況が大きく変化しています。価格が上昇すれば利益を圧迫しますから、安定した価格で原材料や資材を確保することが重要となります。
グローバルSCMは、前述のようにローカルな1か国の最適化よりも、グローバルにおける全体最適化を重視します。そのため、特定拠点で発生していた不良在庫や廃棄にかかっていたコストも、サプライチェーン全体で最適化され削減にもつながります。その結果、原価のコントロールがしやすくなり、売上の最大化を見込むことができるようになるのです。
【顧客満足度の向上】
グローバルSCMにより原材料や資材を適正価格で安定的に調達できれば、サプライチェーンが強化され、安定的な製造管理と商品供給が可能になります。さらに現地生産・現地販売といったグローバル展開ができれば、生産から販売までのリードタイムの短縮と物流コスト削減といったメリットが生まれます。
このようにグローバルSCMは、安定的な調達とグローバルな現地展開によって、コストパフォーマンスが最適化されます。最適化されたグローバルサプライチェーンは、価格や品質も安定するため、顧客満足度の高い価格での商品販売につながり、売上の最大化につながるのです。
グローバルSCMのソリューション事例
では、グローバルSCMを実施するには、どのようなソリューションがあるのでしょうか。
大手物流企業が提供しているソリューションメニューを確認してみましょう。
グローバルサプライチェーンでは、取引している各国で関税手続きや物流におけるルールも異なります。国によっては、現地法人が存在しないと、物流で運んだ荷物を倉庫で保管できないようなケースも存在します。そのためグローバルSCMのソリューションでは、国際間取引を効率的に行うための各種サービスが提供されています。具体的に、どのようなサービスがあるのか、紹介しましょう。
グローバルSCMは、大きく2つの分野に分類されます。
原材料を輸入し商品を製造するまでの「調達系SCMソリューション」と、製造した商品を流通させるための「流通系SCMソリューション」です。
■調達系SCMソリューションの例
まずは、「調達系SCMソリューション」の具体的なサービス内容です。
【VMI サービス】
VMIは、「Vendor Managed Inventory」の頭文字を取った略称で、ベンダー(商品を供給・納品する業者)による在庫管理を意味しています。利用者の手元にすべての商品を届けておき、必要な時に使用した分だけ料金を支払う販売手法。つまり、薬箱一式を家庭に納入し、使った分だけ費用を清算し、商品を補充する家庭用常備薬的な販売方法です。
工場においても、一気に大量の原材料や資材を購入して保管するのではなく、常に適量の在庫をキープできるように、短期間で使用した分の原材料や資材を補充する「Just In Time」スタイルを取り入れている企業もあります。
このようなスタイルは余剰在庫を抱えるリスクもなく、大きな在庫スペースも必要なくなります。また随時使った分を補充するので、在庫切れの心配もありません。細かくサプライヤーの状況を確認しているため、原材料の価格上昇にも敏感に反応できます。
グローバルに展開される各サプライヤーとの取引を一括して委託できるのが、このサービスです。常に使用した分の原材料や資材を補充し、各サプライヤーへの支払いや在庫の最適化コントロールを行います。
※VMIについては、別の記事で詳細に解説しています。
【海外部品調達】
こちらはVMI式ではないものの、グローバル展開するサプライヤーからの部品調達を一括して管理するサービスです。
多岐にわたる海外のサプライヤーでの調達及び請求処理を一括で対応し、在庫は国内の物流拠点で管理します。製造現場へは、このサービスを通じて安定的に部品が供給されるというものです。
面倒な輸出入の各種手続きから請求処理、検品や出荷指示など、すべてをアウトソーシングすることが可能です。
■流通系SCMソリューションの例
続いて、「流通系SCMソリューション」の具体的なサービス内容です。
【ダイレクトデリバリー】
商品を広域で流通させる場合、一般的にはエリアごとに倉庫を配置し、エリアごとに在庫を管理します。しかし、エリアごとに倉庫を持つということは、それだけコストもかかりますし、在庫管理も煩雑になります。
そこで、エリアごとの倉庫をなくして、生産拠点から一気に納入先へ納品するのが「ダイレクトデリバリー」です。
納品のリードタイムが短縮できるだけでなく、在庫を圧縮してコストを抑える効果も期待できます。また、ダイレクトに納品が完了するため、いつどのようにして商品納入が完了したかのトレーサビリティの確認も可能となります。
【海外非居住者在庫オペレーション】
海外で現地法人を設立することなく、自社名義の在庫を持つことを可能とするのが「非居住者在庫」。この方法を使えば、自社の拠点がない国でも、商品在庫を持つことができるようになります。
そのため現地法人を設立する手間やコストが省略でき、リードタイムも短縮できます。
また在庫を配置することにより、頻繁に輸出していた輸送費も軽減が可能です。浮いたコストや時間を付加価値の創出にかけることができるため、最終的にはカスタマーサービスの向上につながります。
グローバルSCMに必要な対応
では、このようなサービスを活用してグローバルSCMを行うためには、どのような対応が必要なのでしょうか。
【シナリオ作成】
異常気象・災害・パンデミックが発生した場合に、どのような影響があるかシナリオを作成する作業です。近年は異常気象やパンデミックによる価格の高騰や、サプライチェーンの分断が生じています。緊急時に、どのような対応方法があるのか検討しておくことは重要です。また各国にどの程度の在庫を配置するか最適な対応を取るとともに、緊急時の判断基準を明確にする必要があります。
【グローバルサプライチェーン脆弱性の分析】
サプライチェーンの脆弱性は、「モノの流れ」だけでなく、「ヒト・カネ・情報・権利や権限」も対象範囲として分析することが重要です。それぞれの項目で、どのような「リスク」があるのかリストアップしてみましょう。そしてリストアップした「リスク」に対して、優先順位をつけましょう。その「リスク」の内容から、サプライチェーンの「評価」が見えてきます。その「評価」や「リスク」を可視化し、各拠点の脆弱性を見極めます。
【サプライチェーン強化対策の検討】
サプライチェーン強化策としては、いくつかのテーマに分けられます。
まず大切なのが、「リスクへの対策」です。自然災害から事業をどのように守るのか、万一被災した場合に、どのように従業員を守り事業を復旧させるのか。そのためには、サプライヤーとITシステムの冗長化の検討も必要になります。
そして事業スキームのシンプル化も必要です。
非常時に命令系統がシンプルに機能することは重要です。管理機能と人材を一元管理できるよう事業スキームをシンプル化しましょう。物流と商流は、分断が生じた場合のシナリオ作成が必要です。取引先との協力・連携を強化し、IT環境を整備することで、サプライヤー全体の状況を可視化できるようにする対応も大切です。
SCMを管理するサプライチェーンマネジメントシステム
SCMを行う際に活用されるのが「サプライチェーンマネジメントシステム」です。
複数か国でまたがって使用される「サプライチェーンマネジメントシステム」は、各国で同一のシステムを使用します。そのため、多言語化や各国の業界標準に適用するようなグローバル対応されているのが特徴です。一般的には、以下のような機能を有します。
グローバル展開される各拠点の財務データを可視化し、シナリオに対する変化を分析します。
【S&OP/IBP】
S&OP(Sales and Operations Planning)は、経営者と業務部門(開発、生産、物流、販売、在庫、調達などの部門)が情報共有により意思決定を迅速にし、サプライチェーン全体を最適化する経営手法。IBP (Integrated Business Planning)は、S&OPを進化・発展させた概念で、サプライチェーンも含めた企業の事業戦略の実行計画を支援し、それを推進するためのソリューションのこと。S&OPが主に短・中期的な期間の戦略なのに対し、IBPは中・長期的な戦略をサポートします。
システムでは財務目標と進捗状況を測定し、需要と供給のギャップを可視化します。リスクを最小限にしながら機会を最大化できるよう、ビジネスの収益を維持するためのS&OP/IBPに関する各種指標を管理します。
【需要・供給計画と在庫管理】
需要予測を的確にシミュレーションします。現実的な供給計画を策定し、予測と注文状況のギャップを監視します。また、需要計画が資材や生産能力の制約に対応できるかどうかを可視化し、適正な在庫管理の対応を行います。コストを最小限に抑えて収益を最大化し、顧客満足度を向上するための各種指標を管理します。
【グローバルサプライチェーン制御】
エコシステム全体の状況を、俯瞰して見ることができます。監視する各種指標の変化から不安要素を検知できるため、リスクをいち早く発見できます。発見したリスクに迅速に対応することで、サプライチェーン全体を制御し安定稼働へつなげます。
このように、グローバルサプライチェーンマネジメントシステムは、専門性も高く対応するスキルも広範囲となります。そのため、プロフェッショナル人材とともにシステムを活用することをおすすめします。
ぜひ、自社のビジネス分野に強いベンダーを見つけて、ベストなプランの提案を受けてください。複数のベンダーから提案を受けることで、それぞれのベンダーの特徴も見えてくることと思います。まずは、上記のような内容を頭に入れて、ベンダーに対してどのようなポイントを中心に相談するかを検討してみてください。
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