●物流DX
ダイナミックプライシングとは?基本の仕組みを解説。物流業界でも進むダイナミックプライシングの波
この記事で分かること
- ダイナミックプライシングとは何か?なぜ必要か?
- ダイナミックプライシングに向いているのはどのような商品か?
- ダイナミックプライシングの導入方法
- 物流におけるダイナミックプライシング活用事例は?
近年ダイナミックプライシングという言葉を、よく耳にするようになりました。
需要に応じて商品やサービスの価格を変動させるダイナミックプライシングは、観光業における繁忙期価格のように、昔から活用されている仕組みです。
しかし近年AIによる需要予測技術が高精度化したことで、より細かな価格設定が可能となり注目されるようになりました。
ただ物流における輸送料は、基本的に輸送距離と荷物のサイズによって決められています。そのような物流業界で、ダイナミックプライシングがどのように検討されているかを探ります。
目次
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは、よく売れる商品の価格を上げ、あまり売れない商品の価格を下げることで、売上を最大化することを指します。価格はAIによって自動的に調整されるため、人が価格を決めるよりも正確で、労力もかかりません。売上を最大化するだけでなく、在庫量や生産のリードタイムに合わせて、販売スピードを調節し、目標期日に完売するというように、サプライチェーン全体を改善することも可能です。
導入事例から見るダイナミックプライシングの注目理由
今、ダイナミックプライシングが注目される理由は何でしょうか。導入事例から考えていきましょう。
■OYO
ダイナミックプライシングの成功事例としては、ホテル予約サービスのOYOや民泊サービスのAirbnbが有名です。
特にOYOのプライシングは洗練されており、RevPAR(revenue per available room:一室あたりの売上)を最大化するため、一時間あたり14万件という大規模なデータを元に、全世界の宿泊料金を一日に6000万件変更することが可能になっています。
これにより、適正価格を提示してユーザの心を掴むことにつながり、創業から6年で客室数世界第2位の企業へと成長しました。
■Amazon
また、最も身近にダイナミックプライシングを体験できる事例はAmazonでしょう。
多くの人が商品購入のページに価格変動のグラフが表示されているのを目にしたことがあると思います。Amazonはダイナミックプライシングを導入後、2013年には1日に250万回以上価格調整を行うことで、売り上げを前年比27.2%伸ばすことに成功しています。
このように、ダイナミックプライシングは適切に導入されれば、企業の成長を強力に促すパワーを持っています。
さらに、ECの普及によって商品の販売情報が蓄積され、ダイナミックプライシングに必要なデータが手に入りやすくなったことも導入を推し進める理由の一つとなっています。
特に、AmazonやアリババといったECプラットフォーム上では日々膨大なデータが収集されており、精度の高いプライシングを可能にしています。
ダイナミックプライシングに向いているケース
ではダイナミックプライシングはどのようなビジネスにも適用できる万能のツールなのでしょうか。実は業種や取り扱う商品によって向き・不向きがあります。
■賞味期限のある商品を取り扱う場合
ダイナミックプライシングが最もうまく働くのは、「賞味期限のある商品」です。例えば人気のライブやスポーツ観戦のチケットは、イベント日に近づくほど入手が困難になり、値段が高騰します。しかし、イベント日を過ぎると価値が無くなってしまい、転売しようとしても買いたいと思う人は誰もいないでしょう。飛行機のチケットも同様に、フライト時刻を過ぎると価値が無くなってしまいます。
また、ホテルの部屋は予約の際に宿泊日を指定する必要があります。
このため同じ部屋でも宿泊日ごとに別のお客様に販売できる別の商品であると考えられます。
そしてやはり宿泊日を超えると予約の価値は無くなってしまいます。
また、毎年の流行に影響を受けるアパレル業界も同様です。
流行に敏感な顧客は代わり映えのしない品揃えには興味を持たないため、常に新しい商品に入れ替える必要があります。
そのため、商品には販売可能なシーズンがあり、シーズンを過ぎると価値が激減してしまいます。
このように、「ある期限を超えると価値がゼロになる商品」は、共通して「価値が時間とともに変化する」という性質があるため、価格を動的に変更するダイナミックプライシングに向いています。
このような期限付き商品を扱う業種としては、以下が例として挙げられます。
飛行機チケット
イベントチケット
ホテル
レンタカー
季節のあるフルーツ
魚や野菜などの生鮮食品もまさに賞味期限のある商品なので、ダイナミックプライシング向きではありますが、期限が時間単位と短いため、技術的にはより難易度が高いでしょう。
商品のオリジナリティ/希少性が高い場合
また、「商品のオリジナリティ/希少性」も重要です。
例えばどこでも売っているようなボールペンをAmazonで販売する際、他の店が100円で販売しているのに、自分の店だけ200円で販売しても買ってもらうのは難しいでしょう。このような、どこにでも売っている商品(コモディティといいます)は市場価格が明確で、ダイナミックプライシングを適用する余地がありません。
ですがもし、ボールペンに流行りのアニメ柄がついており、他の店で取り扱いが無い場合は、150円に価格を設定しても売れるかもしれません。極端な例ですと、世界に一つしかない名画には市場価格が存在しないため、プライシング技術は必要不可欠です。
このような希少性のある商品を扱う業種としては、以下の例が挙げられます。
中古販売市場
不動産
美術品/骨董品
逆に、昔から変わらない値段で売られているカップラーメンのようなコモディティは供給や価格が安定しており、ダイナミックプライシングには不向きと言えます。
物流におけるダイナミックプライシングの発想
では物流業界では、ダイナミックプライシングをどのように活用しようとしているのでしょうか。
AIサービスを提供しているソリューション企業が主催するAI活用コンテストで、物流業者が優勝したときのプランが「サプライチェーンにおける物流リソースの最適化を実現するダイナミックプライシング」でした。
簡単に表現すると、「物流の稼働を平準化させる」というプランです。
物流の業務の中でも、繁忙期と閑散期が存在します。繁忙期は、人材やトラックが足りなくなるような状況になったとしても、閑散期には人材もトラックが余っている場合があります。
だから荷量が多いタイミングに「早割サービス」を実施して、荷量が少ないタイミングに受注を移動させようという考え方です。
荷量が少ないことが分かっているタイミングには、早期割引価格を適用することで発送日が指定されていない、少し早く届けてもいい荷物を安く運ぶようにします。多くの企業は、物流費用を抑えたいと考えているため、ある程度輸送期間に余裕がある荷物に関しては、安い「早割りサービス」を使って輸送したいという需要もでてくるでしょう。こうして、荷量が多いタイミングの荷物を、荷量の少ないタイミングにシフトしていこうという発想です。
荷量が平準化されれば、人材やトラックの台数もピーク時の必要数が抑えられます。
ピーク時に合わせて余剰な人材やトラックを準備する必要がなくなりますので、安定した稼働が見込めるようになります。
物流業界は、人材不足が顕在化しているため、限られたリソースの中で無駄なく対応できることは非常に重要なことです。無駄がなくなれば、生産性も向上しますので経営的にもメリットとなります。
また日本の物流の9割以上は中小の輸送業者が支えています。そのため、運送事業者ごとに生産性の最適化を図ろうとしてもおのずと限界があります。そこで、「中小の輸送業者を束ねたかたちでリソースを共有しよう」という試みが始まっています。
代表的な例が「求車求荷サービス」です。
目的地まで荷物を運び終えた帰りの便でトラックの荷台が空いている「車両情報」と、運びたい荷物はあるが、なんらかの理由で車両手配ができず輸送できないでいる荷主の「貨物情報」をマッチングさせ、無駄なくトラックを活用するサービスです。
しかしこの「求車求荷サービス」では荷主の要求が強いために、出荷する荷量の平準化まではできていないのが実情です。そこで、ダイナミックプライシングを活用して、価格による平準化を狙うということを考えているのです。
BtoBだからできる最適化
このような、ダイナミックプライシングを活用した荷量の平準化は、すべての物流サービスで活用できる訳ではありません。ECで購入した商品の配送や、個人が利用する宅配便では、1つの輸送依頼に対する荷物の数量が少ないため、荷量の平準化のコントロールは難しくなります。
しかしBtoBの輸送では、1回の輸送ロット数がBtoCと比べて膨大に増えます。
そして荷物は「指定日までに届いていればよい」というケースも多いため、輸送期間にバッファーがあります。かつ物流費用を抑えたい荷主が多いため、「早割サービス」で大きなロット数の荷物を荷量の少ないタイミングに移動しやすいという特徴があります。
前述のAI活用コンテストで優勝したプランは、そのようなBtoB市場を狙ったダイナミックプライシングのアイディアだったのです。
ダイナミックプライシングにおけるAIの役割
では、このAIを活用した物流のダイナミックプライシング案は、AIをどのように活用しようと考えているのでしょうか。
このプランでは、荷主の過去の輸送実績を分析して需要予測を立て、荷主にとって最適な出荷計画もアドバイスしながら、運送業者の負担にならないような早期割引運賃をAIで導き出そうとしています。
しかし荷主の輸送実績データは、各社の使用しているシステムごとに出力される形式が異なるため、定型フォーマットで扱うことができません。そこでAIのデータ加工機能を活用して共通フォーマットに変換します。そして、各社の傾向を分析することで繁忙期を判別し、将来の需要予測を行うというものです。
また、荷主側だけではなく輸送する物流企業側も、対応する企業数が増えれば、対応するリソースの管理が複雑になります。そのため、先に荷主側の出荷計画の平準化を計画し、その計画を受けられる物流リソースに対応させます。このように、多数の荷主と多数の物流リソースの平準化の最適解を見つけるために、AIが活用されるということです。
BtoCでもダイナミックプライシング活用
先程は、BtoBが物流のダイナミックプライシングに適用しやすいということをお伝えしました。ただ、BtoC市場でも物流のダイナミックプライシングに挑戦する企業がでてきています。
ある大手ネットスーパーでは、配送日をスーパー側が決めることでダイナミックプライシングによる配送量の平準化を狙います。
従来のネットスーパーは、商品をカートに入れて決済するときに配達希望日を選択します。しかしそのネットスーパーでは、最初に配達希望日を選択してから商品を選ぶ仕組みに変更しました。しかも選択する配達希望日は、ある程度バッファーのある期間での指定です。
首都圏中心の59店舗については、「注文日の7日後まで」というオーダーであれば、配送料をこれまでの税込み330円から税込み220~330円に変更しています。配送料にダイナミックプライシングを採用して、配送量の平準化を図ろうという取り組みです。
これまで日本国内の事例を紹介してきましたので、最後にダイナミックプライシングを積極的に活用している海外の様子を紹介します。
物流に近いサービスとしては、BtoCのライドシェアの「配車サービス」で乗車料金にダイナミックプライシングが活用されています。グローバル展開している東南アジアの配車サービスでは、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、カンボジアの8カ国で、ダイナミックプライシングを適用しています。
価格は、日程における需要や時間帯、天候、渋滞状況などに応じて変化します。朝夕のラッシュ時間帯では、オフピーク時の3倍以上の値段に変化することもあるようです。ただ、価格が高騰している時間帯は、表示価格の横に高騰価格を示すアラートが表示されるようになっており、高額の場合はバスやタクシーに切り替えたり、移動の時間帯をずらしたりの対応を行っているようです。
このようにダイナミックプライシングの先進国では、利用者側と提供側の双方に価格の選択権があり、価格が高騰する場合に利用者は代替えの手法を選択するという習慣ができつつあるようです。
日本の物流業界でも、このようなダイナミックプライシングを活用するサービスの準備が進んでいるのです。
ダイナミックプライシングの導入方法
ダイナミックプライシングは、適切な手段を選択することで導入ハードルがぐっと下がり、また導入後素晴らしい恩恵をもたらしてくれることも多い技術です。マテマが提供しているダイナミックプライシングはビジネスに合わせたカスタマイズも相談可能です。是非一度お気軽にお問い合わせください。
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