物流DX

AIを活用した物流の災害対策

AIを活用した物流の災害対策

この記事で分かること

  • 物流ではどのような災害リスクがある?
  • 災害時に、物流AIはどう役に立つ?

近年、大規模な自然災害が毎年のように発生しており、そのたびに物流企業は物流網の遮断や、物流拠点の被災といった影響を受けています。物流業界は、災害が発生したエリアでの輸送業務でどれだけの影響が出るのかを把握し、回避策をどのように考えるべきかを検討する必要があります。

そのため物流業界では、AIを活用した災害対策を進めています。

今回は物流業界で、どのようなAI活用の災害対策が進んでいるのか解説します。

東日本大震災での物流企業の被災状況

災害

まずは、2011年に発生した東日本大震災において、物流企業がどのような影響を受けたのかを確認してみましょう。

日本物流学会 震災特別研究会が平成25年9月に発表した「災害時の物資供給のロジスティクス」というレポートに、物流企業が受けた影響に関する調査が記載されています。

その調査結果によると、68%の企業が「経営資源の損失」を受けたと回答しています。

損失の内容は、6割以上が「自社設備・備品」と「自社施設」で、物流拠点とその設備や備品といった必要不可欠なものの損失となっています。

また復旧までに要した期間は、1か月未満という企業が最も多く25%ですが、全体の1/4にとどまります。多くの企業は、1か月以上復旧に時間を要したことになります。次いで多かったのが1か月の22%、2か月かかった企業は12%となっており、2か月以上要した企業の割合は減少していきます。

では、ロジスティクスに影響を受けた際に、どのように見直したのでしょうか。

「委託先の対応能力の確認」と「委託先の対応能力の協議」がともに30%を超えて最多となっており、まずは委託先のロジスティクスでの対応を検討していることが分かります。次いで「代替え体制の構築」「物流拠点の分散化」がともに22%となっており、既存のロジスティクス以外の活路を求めていた企業も多かったことが分かります。

このような東日本大震災の被災状況から、防災対策とBCP(事業継続計画)の重要性が語られるようになりました。

物流におけるBCP(事業継続計画)とは

BCP(Business Continuity Planning)とは、災害発生などの緊急事態に企業や団体が事業を継続するために必要な計画のことです。緊急時に事業資産の損害を最小限にとどめ、従業員や資産の損害状況を速やかに把握し、事業の継続と早期復旧を目指して「事前の対策と被災後の応急対策と復旧対策を計画すること」が重要です。そのため、予防対策、応急対策、復旧対策の3つの対策を計画します。

計画の対象となるのは、以下の5つの資源です。

・人材資源(従業員、顧客、取引先、来訪者)

・物的資源(原材料、製品、施設、設備、エネルギー)

・金融資源(資金、資本)

・情報資源(データ、技術、ノウハウ)

・組織資源(社内体制、社外からの受援体制)

物流業界では、過去の大規模災害発生時には物流拠点の被災により、サプライチェーンの分断が発生しています。

応急的にロジスティクス内にある在庫で対応するために、緊急時にも対応できる在庫数を計画的に検討する必要があります。そして、その在庫と備蓄の中で事業を継続するために「サービスレベルの調整」が必要となります。

災害発生時のサプライチェーンの被災状況に応じて、減産体制で乗り越えるのか、一度生産を止めて復旧させる必要があるかの判断が必要となります。規定のサプライチェーンだけでは事業が継続できないと判断された場合には、原材料の調達先や各種作業の代替え対応の必要があり、委託先の変更という判断もでてきます。また、顧客からの問い合わせに対しても、速やかに状況を伝える必要があります。

そこで、災害対策においてAIを活用できないかという考えから、様々な動きがでてきています。

なぜ防災対策にAIが活用されるようになったのか

では、なぜ防災対策にAIが活用されるようになったのでしょうか。

まずは、災害予測分野での対応として予防対策の事例があります。

地震や津波の発生を、AIを活用してより高精度に予測するという取り組みです。

地震に関しては、全国1300ヶ所の電子基準点のデータ(過去12年間分)をAIに学習させ、最新の電子基準点の動きと照らし合わせて、地表の異常変動を察知するという取り組みが行われています。

また津波に関しては、AIを活用した被害軽減予測が進められています。津波は地形によって被害状況が異なるため、AIがエリアの地形から被害状況を予測し、その予測に対してどのような対策ができるかを検討します。そして、その対策によりどの程度被害を抑え込むことができるのか、AIを活用した被害軽減予測が進められています。

このように、災害の発生予測で使用されるAIですが、活用範囲は予測分野にとどまりません。物流企業の事業継続のためにも活用されるようになってきています。

物流企業に役立つAI防災・危機管理ソリューションとは

AI

では、物流企業に役立つAI防災・危機管理ソリューションには、どのようなものがあるのでしょうか。

防災・緊急情報を専門に取り扱う企業では、AIを活用して公的機関の発表や報道より早く、災害や緊急事態の発生を配信しています。

物流企業では、輸送に利用している道路状況の確認は重要です。

事故や災害の発生により、通行できなくなった場合の回避策や、仮に届け先が被災エリアとなっていた場合、届け先の被災状況がどのような状態なのかによって、輸送を止めるのかの判断材料が必要となります。そこで活用されるのが、災害発生をいち早く伝えるサービスで、応急対策の事例です。

「いつ」「どこで」「なに」が起きたのかを地図上で可視化できるこのサービスでは、物流企業をはじめとする多くのインフラ系企業が災害の兆候や災害発生後の状況把握に活用しているほか、テレビ局や新聞社など報道機関も取材の情報源として活用しています。

このサービスの情報ソースは、ツイッターやインスタグラムなどのSNSです。SNSで「第一報」を入手しているからこそ、全国津々浦々のどこでなにが起こったかを拾い上げることができるのです。また、地震における振動のデータや水害での川の水位のような数値データではなく、「〇〇の堤防が崩れた」「〇〇の道路に水が流れてきた」といった具体的な表現での情報が得られる特徴があります。

このようなSNSの情報をAIが収集・解析し、さらにAIによる信ぴょう性の判断を加えて、24時間体制で人による真偽の確認も行いながら、デマ情報ではないかを判断して情報が配信されています。

多数SNSにアップされる写真に移り込む周辺の風景情報から、AIが場所を特定し、かつその写真が加工されたものでないかもAIが分析しているといいます。この企業ではこのAI分析に関して、20件近くの特許を所有しており、精度の高い情報を発信しているということです。

AI災害対策の活用事例

それでは、物流企業でも活用できるAI災害対策は、他にどのようなものがあるのでしょうか。いくつかピックアップしてみましょう。

【災害の被害予測サービス】

■数時間後の災害監視画像予測

先程は、いち早く災害・緊急事態の発生を伝えるサービスを紹介しました。

こちらは、その発生した災害・緊急事態の数分~数時間後の予測状況を画像で可視化してくれるサービスです。応急対策として、日本の建設コンサルタント企業が研究を進めています。

このサービスでは、ディープラーニングの一種である、CNN(畳込みニューラルネットワーク)、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)、GAN(敵対的生成ネットワーク)といった最新技術が活用されており、AIにより未来予測画像が生成しています。

民間企業が配信している渋滞情報画像を基に5分後の渋滞画像を予測し、応急対策として緊急車両の通行経路確保につなげる研究開発や、豪雨時の数時間先の堤防の状況予測を可視化するための研究開発も進められています。

【緊急時の顧客対応】

■コールセンターのAI対応

近年は大きな災害が発生しても、ビジネスを継続できるようBCP対策を講じることが求められています。そのような状況下、コールセンター業務をAIで自動化する技術を紹介します。応急対策として、コールセンターのオペレーションに特化したAI開発企業が提供しているサービスです。

災害時の物流企業は、荷物が届けられるのかどうかの問い合わせ対応が急務となります。

しかし災害時には、指示系統もうまく機能しなくなる恐れもあり、従業員の安全確保のため業務を停止せざるを得ないケースもでてきます。

ただ、AIが自動で問い合わせに対応してくれれば、対応できる問い合わせの本数は増加します。仮に従業員の避難が必要になったとしても、システムが無人で対応します。

この企業が開発したサービスでは、音声認識精度は高いものであれば95%を記録しているので、AIがしっかりと顧客の電話問い合わせに無人で対応してくれるのです。災害時には、災害状況に応じた対応を指定すれば、AIがその指示に応じた対応を行います。

■問い合わせ対応のAIチャットボット

音声での問い合わせだけでなく、テキスト情報での問い合わせもAIが対応できるようになっています。そのように、リアルタイムにテキストで問い合わせ対応する仕組みが、応急対策となる「AIチャットボット」です。

チャットボットの魅力は、入力された情報をシステムと連携できる点にあります。

物流企業の場合、特定の伝票番号の荷物の配達状況などの問い合わせが多数となります。チャットボットであれば、その伝票番号を入力してもらい、システムに通信して配送状況を問い合わせ者に返答することができます。平時の「どこの物流拠点を通過した」というような情報だけではなく、災害発生時には届け先エリアの被災状況を判断して、対応を返答するという制御もできるようになっていくでしょう。

既に、AIチャットボットで大規模災害時の被災状況を伝える国家プロジェクトも始動しています。災害時の問い合わせ対応に、期待されている技術です。

【支援物資の管理対策】

■RFIDやブロックチェーン技術を用いた物流対応

災害時の物流では、自社の輸送業務だけでなく、被災地への支援物資の輸送を対応する場面もでてきます。そのような全国から集められる支援物資では、どのようなものがどこにあるか分からないという状況が発生しています。

2016年4月に発生した熊本地震では、一ヶ月近くも集積所に支援物資が滞留し、避難所に届けられない事態が発生しました。これを予防対策として、RFIDやブロックチェーン技術で対応しようという動きも出てきています。

物資を詰め込んだ段ボール1箱1箱にRFIDを装着することで、内容物とどのような経緯の荷物であるか、段ボールを開けることなくハンディターミナルで確認ができるようになります。

また、支援物資をブロックチェーンで管理できるようになれば、複数のデータサーバー間で同じデータを分散保持できるため、サーバーが被災するといった物理的な理由でデータを紛失することがなくなります。また、避難所ごとに足りない物資・必要な物資が何かという情報と、その避難所に対してどのような荷物を誰が送ったかの情報を紐づけて管理することができるようになります。

RFIDで、そのような一連の情報も一緒に届けることで、いつ誰が必要だと言ったことに対応する荷物がどれなのかが判別できるようになるのです。

BCP対策の今後

このように、物流企業が利用できるAI災害対策サービスがでてきています。

では企業は今後、BCPをどのように考えていくべきなのでしょうか。

AIの世界では、「コグニティブ技術」という発想が生まれています。

「コグニティブ技術」とは、ITシステムは与えられた情報を処理する単なる機械ではなく、人間のように、自ら理解・推論・学習するシステムになるという発想です。

AIが人間的な判断ができるようになるためには、大量かつ多種多様なインプット情報を集める「データの収集方法」が鍵となります。現在BCPのインプット情報は、主に下記3つのタイプで対応されています。

■過去振り返り型

予防対策として、過去に起きた大災害に関連するビッグデータを収集して、その時に何が起きていたのかを詳細にシミュレーションするケース。携帯電話のGPS情報から人の動きを再現するようなケースです。

■アラート発信型

応急対策として、ある特定の環境で発生する情報を長期間収集し、そのパターンを分析する手法です。その分析により、新たな事象が発生した場合の対応策のアラートをリアルタイムに発信するケースです。サーバーの予防保守・運用や、セキュリティ対応への応用で使用されています。

■ナレッジ共有型

応急対策として、地域、企業、プロジェクトなどをまたがって発生した複数の情報をタイムリーに収集し、「コグニティブ技術」に学習させる手法です。その情報を共有することで、個別の企業や団体だけでは認識できないリスクも含めて、検知・助言できるようになるという考え方です。新型コロナウィルス感染症のパンデミックのように、世界のどこかで発生した全く新しいリスクの脅威が近づいている時に、タイムリーに警告を受けるようなイメージで考えられたパターンです。

今後、企業のBCPはステークホルダーも複雑化して、各社と情報を共有しながら判断することが必要とされてくるでしょう。そうなった場合に、上記のナレッジ共有型の発想が必要となってきます。そのためには、ステークホルダー各社が、まずは共有できる情報を保存しておくことからはじめなければなりません。

そのデータを「コグニティブ技術」で活用することによって、これまでに経験のないような危機が発生した場合にも、AIが人間に近しい判断で、アドバイスしてくれる時代になるということです。

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