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AIターミナルで海運はどう変わるのか|先端技術

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この記事で分かること

  • 現在の海運業の課題は何か?
  • AIターミナルとは何か?AIターミナルで海運はどう改善されるか?

海外から船舶で貨物を海上輸送する海運は、日本の貿易にとって非常に重要です。国土交通省によると、2020年の貿易総額の約7割が海運によるもので、航空貨物の2倍以上の貿易額を扱っています。

しかし日本の海運は、世界の海運に対して遅れをとっています。コンテナ船からコンテナを降ろし、トレーラーに積み替えて陸送に受け渡すためのコンテナターミナルは、国際的なニーズである「自動化」の対応が遅れています。そのため日本の港湾は、コンテナの積み替えとなるトランシップ利用で選ばれなくなっています。日本の港湾は、中国をはじめとする自動化が進んだアジア各国の港湾に、トランシップ利用を奪われてしまっているのです。

そこで必要とされているのが、自動化を推し進める「AIターミナル」構想です。

「AIターミナル」を構築することで、日本の港湾を世界基準の対応レベルに引き上げ、これまでアジア各国へ流出してしまったトランシップ利用を日本へ引き戻し、さらに海運から国内の陸運への橋渡しをスムーズにして生産性を向上させることができると考えられています。さらに港湾作業の自動化により、労働力不足に苦しむ港湾業務の改善が期待されています。今回は、「AIターミナル」について解説します。

AIターミナルとは

まず、コンテナターミナルとは海上コンテナの海上輸送と陸上輸送の結節点となる港湾施設の総称です。日本国内では東京港・横浜港・名古屋港・大阪港・神戸港が5大ターミナルと呼ばれ、取扱量が年間100万個を越えるコンテナターミナルです。しかし世界では、年間1000万個を越えるコンテナターミナルもあるため、日本の5大ターミナルは世界的に見れば中規模なコンテナターミナルとなります。

そして「AIターミナル」とは、AI(人工知能)を活用してコンテナターミナルのオペレーションを最適化しようとする取り組みです。2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」に盛り込まれた、「世界最高水準の生産性と良好な労働環境を備えるAIターミナル」でその方向性が示されています。

自動化で取り残された日本の港湾では、大型コンテナ船の影響が懸念されています。増加している大型コンテナ船は荷量が多く、着岸時間も長時間となります。そのため、コンテナターミナルの生産性を上げなければ、港湾で対応できる船の便数が減少してしまいます。しかし国内のコンテナターミナルは、船舶の大型化やオペレーションの自働化への対応が遅れており、国際競争力が低下しています。その結果、基幹航路としての寄港数も減少が続いています。

国土交通省「港湾取扱貨物量ランキング」において2000年時点では、日本の3港湾が世界のTOP20に入っていました。千葉港が6位、名古屋港が8位、横浜港が15位です。しかし2016年には、かろうじて名古屋港が18位にランクインした1港湾のみとなっているのです。

シンガポールや釜山は、他の港湾への積み替えとなるトランシップ貨物の取扱が多く、ハブ港湾として機能しています。しかし日本国内の主要港は、自国宛の貨物の取り扱いがほとんどとなっています。その結果として、他国のアジア主要港が基幹航路の便数を獲得し、国内の港湾は減少してしまっているのです。

このような国際競争からの転落を避けるために、最新のテクノロジーでコンテナターミナルのオペレーションを活性化しようと考え、進められているのが「AIターミナル」です。

日本の港湾が抱える課題

では現在、日本の港湾には、どのような課題があるのでしょうか。

根本的に大型コンテナ船が入港できる港湾が少ないことや、自動化が進んでいないこと、そのために国際競争力が低下していることは、これまでに記載しました。

現在重要視されているのが、サプライチェーンにおける港湾の生産性向上です。

近年の製造業は、東南アジア方面の工場で部品を製造し、それを日本に運んで製品に組み上げるスタイルが多くなっています。しかし、港湾での部品の受け渡しが滞ってしまうと、その後のサプライチェーン全体が遅延します。部品が入荷しないと生産数が減少します。生産数の減少は最終的に売上に影響するため、港湾でいかに迅速かつ正確に作業できるかが重要なポイントになるのです。

また、手続きが非効率であることも課題となっています。

現在の物流に関する手続きでは、紙や電話ベースでの情報伝達が依然として残っています。そのため、不確実で処理が遅くなります。これが原因のひとつとなり、コンテナターミナルのゲート前には、入場を待つトラックによる渋滞が起こります。

トラックのドライバーにとっては無駄な待ち時間である上に、貨物の搬入が遅れればターミナルでの作業全体の遅延につながるため、問題視されています。

このような課題を解決するためにも、コンテナターミナルオペレーションの自動化による生産性の向上が必要であると考えられているのです。

AIターミナルが必要な理由

またAIターミナルが必要とされる背景には、上記のような国内事情だけではなく、国際的な「自動化」に対応するという重要な理由があります。

国土交通省によると、2018年の世界のコンテナ取扱個数TOP20港のうち75%にあたる15港が、自働化を導入(予定含む)している状況です。しかし日本国内では、名古屋港でようやく半自働化が導入できた状況にとどまっています。

引用1

※出典:国土交通省「AIターミナル等に関する情報提供」より

また日本の港湾オペレーションは、人材不足と高齢化が進んでおり、増え続ける荷量をさばききれなくなる恐れがあります。そこで、マンパワーによる解決ではなく、AIやIoTを活用した自動化による生産性の向上が求められているのです。

AIやIoTで港湾のオペレーションが自動化されれば、コンテナターミナルだけでなく、そこから日本国内の陸運への接続も効率化され、物流全体の生産性の向上が見込めるようになります。

通常コンテナターミナルでコンテナが海運から陸運へ引き渡される手順は、次のような流れになります。コンテナ船から下されたコンテナは、コンテナヤードと呼ばれる場所に下されます。そこから、陸運に引き渡すためにトレーラーに乗せ換えるエリアでトレーラーに乗せられて国内の陸運へ引き渡されます。

ただ、現在ターミナルで積み下ろされたコンテナの情報と、それを国内で陸送するトラック・トレーラーの情報は、非常にアナログな対応となっています。そのため、コンテナターミナルでのコンテナの積み下ろしや税関手続きが遅れれば、陸送するトラック・トレーラーは待機させられることとなり非効率です。

しかしAIターミナルが実現すれば、あらゆる処理がデジタル化され、コンテナの積み下ろし作業や貿易手続きもIoTが活用されたリアルタイムな情報連携ができるようになります。そして、陸送するコンテナをトレーラーへ乗せ換える作業も自動で出来るようになるのです。

そうなれば、国際的な要求が高まる自動化が実現でき、サプライチェーンの生産性向上も可能となり、各種手続きもスムーズに進みます。これまで関係者間で共有できていなかった荷物の現在の状況と、今後の届け先までの到着時間予測も可能となるため、海運から連携する陸運のオペレーションもスムーズになり、様々な課題が解決されてゆくのです。

AIターミナルの実装イメージ

では具体的にAIターミナルは、どのようなオペレーションになるのでしょうか。

まずはターミナルのゲートからデジタル制御されます。

ターミナル内で効率的にコンテナを引き渡すため、引き渡し準備ができたトラック・トレーラーだけに進入を通知し、ETCで自動識別して車両流入の平準化が進められます。

ターミナル内に入ると、システムから通知された番号のヤードへ移動します。

すると、既にコンテナが準備されており、自動でトラック・トレーラーへコンテナが積まれます。コンテナを受け取ったら、スムーズにターミナルを出て、国内の陸運へと引き渡されます。

このヤードにコンテナを移動するには、自動走行する無人搬送車(AGV)が活用されます。

コンテナ船から下されたコンテナは、貿易手続きが自動で行われ、貿易手続きの終わったコンテナから順次、陸路に向けてヤードへ移されます。この移動を行うのがAGVです。自動化されたオペレーションにより、指定コンテナを指定ヤードへ自動搬送します。この一連の流れをAIがコントロールするというものです。

また、コンテナ船からコンテナを下す際にもAIが使われます。

船上のコンテナは、自動運転のクレーン(RTG)によって下されます。その際にAIがコンテナの内容物から手続きに時間のかかりそうなコンテナと、すぐに処理できるコンテナを判別します。

そして、コンテナを地上に置く際に、AIが配置する順序を判断します。

手続きに時間がかかりそうなコンテナを下段に、すぐに処理が終わりそうなコンテナを上段に積むことで、常に上のコンテナが先に引き渡される効率的なオペレーションに制御されるのです。

このように、RTGとAGVの連携オペレーションが自動化されることで、マンパワーに頼らず、効率的なオペレーションが出来るようになるのです。

2018年から横浜の本牧ふ頭で行われている実証実験「CONPAS」では、ヤードにおける荷繰り作業で15分程度の準備時間が確保できるようになり、ゲートでのトラックの待機時間を搬出では5割、搬入では6割削減できたということです。

引用2

※出典:国土交通省「AIターミナル等に関する情報提供」より

2030年の港湾が持つべき3つの役割

このAIターミナル構想では、将来的に港湾が3つの役割を持つべきであると考えられています。

まず1つ目は「Connected Port」、つまり様々な接点をつなぐ役割で、港湾の基礎的な概念です。日本と海外、生産者と消費者、またサプライチェーンや国内外の企業間など、様々な要素をつなぐ存在としての港湾の機能です。特に、部品の製造工場が多い東南アジアと日本を行き来する航路の拡大が望まれています。

2つ目が「Premium Port」で、「Connected Port」に加えて産業拠点としての強化を行うことです。

大型船を受け入れるための施設整備や、港周辺に高速道路や物流拠点をつくることで、港湾からスムーズに陸運へつなげることが必要とされています。

そして3つ目が「Smart Port」で、デジタル化による港湾の効率化です。

港湾物流に関する手続きをはじめ、貨物、車両、船舶などのあらゆる情報をデジタル化して、「港湾関連データ連携基盤」と呼ばれるプラットフォームを構築します。そうすることで、関係者がデータ連携を行えるようになり、各事業者がリアルタイムで必要な情報をやりとりできるようになります。

このような3つの役割を持つことができれば、日本の港湾は世界に誇れる存在になれると考えられており、「AIターミナル」の存在が注目されているのです。

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