先端技術

SIPの「スマート物流サービス」で描く物流の未来像とは

SIPの「スマート物流サービス」で描く物流の未来像とは

この記事で分かること

  • SIPとは何か?
  • スマート物流とは何か?なぜ必要か?

物流業界では「労働力不足」「環境負荷の軽減」といった大きな課題がある中で、それらの課題を個別の企業の対応だけで改善するのは難しいという専門家の声も聞かれます。

そこで個別企業の対応だけに頼るのではなく、業界全体として変革するべき時と考え、政府主導での取り組みも進められています。

SIP「戦略的イノベーション創造プログラム」は、内閣府が主導する科学技術イノベーション実現のために創設された国家プロジェクトです。その中で「スマート物流サービス」という物流の未来像が描かれています。

今回はSIPの「スマート物流サービス」で、どのような物流の未来像が描かれているかを解説します。

SIPとは

SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)とは、「戦略的イノベーション創造プログラム」と呼ばれる国家プロジェクトの名称です。内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり、各国家機関の枠や分野を超えたマネジメントを行うことで、科学技術イノベーションを実現するために創設されました。

これまでに、防災に関する「線状降水帯の発生予測」や、公道における「自動運転車の実証実験」などの最先端技術の開発を推進し、基礎研究だけでなく実用化に導くための働きを担っています。

このSIP戦略の中では「スマート物流サービス」という物流の未来像が描かれています。

では、SIP「スマート物流サービス」によって、物流はどのように進化するのでしょうか。

スマート物流サービスとは

SIPの「スマート物流サービス」は、ITを活用して自動化・効率化された物流サービスの未来像です。これまで企業が独自に取り組んできた物流インフラを物流業界全体で共有することで、業界全体を俯瞰した物流・商流データをビッグデータ化します。そのビッグデータ活用により新産業を創出し、生産性向上といった課題解決を目指しています。「物流DX」が、企業ごとに対応してきたのに対し、「スマート物流サービス」は業界全体で取り組むより大きな話になります。

「スマート物流サービス」実現のために、SIP主導で進められているプロジェクトには、下記のようなものがあります。

物流・商流データプラットフォーム

これまで個別の企業ごとに持っていた物流インフラを共有化することで、物流・商流を業界全体で管理するデータプラットフォームを作り出します。

物流に関わる様々なデータフォーマットを標準化し、収集・活用可能にすることで、サプライチェーン全体を可視化し、新たな価値を創造していく基盤として構築することを目指しています。

このようなデータ基盤を成功させるために、プラットフォームの提供者がユーザーやデータを囲い込んで独占しないようにすること、情報の秘匿性・信頼性・共有性に優れていること、採用される技術の有効期間が長く、将来的な発展の余地がある技術が選ばれることが必要と考えられています。現在は、SIPの実証実験ということで国主導で進められていますが、将来的にどのような企業がプラットフォームを管轄することになるかが注目されます。

「モノの動き」の見える化技術の確立

物流・商流データプラットフォームでは、物流のビッグデータが新たな産業を生み出すと考えられています。そのため、荷物がどこで積まれ、どこのセンターを経由し、どのトラックに積まれて、いつ最終地点に届くのかといった「モノの動き」のデータをリアルタイムに関係者全体に共有します。そうすることで、物流に関わる人やトラックといったリソースを計画的に配置することが可能になり、生産性の向上が見込めます。

このように「モノの動き」を全体で可視化することで、例えばどのような商品がどのエリアで人気なのか、人気商品がどのエリアであれば在庫が残っているかなど、今まで企業ごとにしか分からなかったことが、関係者全体で共有できるようになるのです。

そのような環境を実現するために、倉庫などの物流拠点におけるデータだけでなく、GPSによる位置情報も活用して、共通規格のデータフォーマットで業界全体のビッグデータの見える化を目指しています。

「商品情報」の見える化技術の確立

また、物流だけでなく流通に関する「商品情報」の見える化も進めています。

物流におけるデータフォーマットが共通化されれば、物流の先にある商品が販売され顧客に届くまでのデータも取得できるようになります。ここでいう商品情報とは、商品名だけではなく、商品のシリアル番号・賞味期限・製造場所といったデータのことです。このようなデータを一元管理できれば、あるタイミングで発生した工場トラブルでの商品回収も、流通関係者全員が情報を確認して対応できるようになります。

例えば、食品メーカーで製造された商品に異物混入が確認された場合や、原材料に問題が確認された場合に、販売しているスーパーマーケットなどが独自に該当する商品を判別できるということになります。

非接触でデータを読み取れる電子タグRFID(radio frequency identifier)を活用すれば、いちいち担当者が全商品のバーコードを読み込む必要もなく、ベルトコンベア上を移動する際にも、自動運転のフォークリフトで移動する際にも、自動でデータを取得できます。これまでは企業ごとに管理していたデータが業界全体で共用化されるため、スマート物流サービスでは、大量のデータをスピーディーに処理する必要があります。そのため、バーコードに代わる商品識別技術としてRFIDをいかに普及させるかが、この研究項目の主題となっています。

企業単体では達成不可能な領域を全体最適化

これまで物流企業各社は、独自のDX(デジタルトランスフォーメーション)により、作業の自動化や効率化に対処してきました。しかし、個別企業がそれぞれに対応するだけでは、生産性の向上もCO2削減も限界が見えてきました。そのためSIPの「スマート物流サービス」では、業界全体で業務やデータを共有し、さらなる生産性の向上と環境負荷の軽減を目指す取り組みが進められています。

これまで個別企業ごとに持っていた倉庫を共同倉庫にして共同配送することにより、必要なトラックの台数を減らして積載効率も向上させることができます。業界全体で完全自動の大型倉庫を共有すれば、自動化により労働力不足にも対処でき、処理速度が上がるため生産性の向上が見込めます。

SIPの「スマート物流サービス」では2035年頃までに、このような物流業界全体で一元管理するスマート物流拠点を構築し、物流・商流のビッグデータ化を目指しています。このようなビッグデータからは、AIで需要予測を行い適切なトラック台数で効率的な輸送ができる環境が構築され、自動運転ロボットやドローン配送も組み合わせた完全自動の物流システムの実現を目指しています。

スマート物流がもたらすもの

このようなスマート物流の実現により、どのような成果が見込めるのでしょうか。

内閣府ではスマート物流により、30%の生産性の向上を目指しています。その背景にあるのが、「労働力不足」「ニーズの多様化」「環境への対応」です。

※「労働力不足」の対策に関しては、こちらの記事で解説しています。

※「環境への対応」の対策に関しては、こちらの記事で解説しています。

我が国の人口推計では、生産年齢人口が20年後には約20%減少すると言われており、自動化による解決が期待されています。また各種メーカーから販売される商品は、かつての大量生産から多品種・小ロット化が進み、大量の貨物を一度に運ぶのではなく、必要量をこまめに運ぶようになりました。この変化により、トラックの積載効率は約25%低下したと言われています。そしてCO2削減も対応が必要です。2016年のパリ協定により2030年までに26%削減という目標が掲げられています。

※「多品種・小ロット化」に関しては、こちらの記事で解説しています。

このような「労働力不足」「ニーズの多様化」「環境への対応」により、それぞれ20~30%の変化が見込まれるため、政府はスマート物流により、「30%の生産性の向上が必要」という目標を示しています。これにより、物流の市場規模25兆円の30%として、年間7.5兆円の経済的なインパクトがあると試算されています。

SIPSでは生産性の向上のため、現在は人手に頼っている荷積み/荷降ろしを自動化する技術や、バースでの荷下ろし作業や車両の出入りを画像認識技術で解析して荷役作業の自動記録や検品を自動化する技術の研究が進められています。

スマート物流で活用される最新技術

スマート物流で活用される最新技術

スマート物流では、AIやIoTなどの最新技術が活用されます。

最後に、どのような技術が使われるのかを紹介します。それぞれの技術については、解説記事へのリンクもついていますので、詳細はそちらの記事をご確認ください。

●IoT

IoT(Internet of Things)は日本語で「モノのインターネット」と呼ばれ、モノがインターネット経由で通信することを意味します。物流では倉庫内で、様々な機器がインターネットでデータのやり取りをして、作業の自動化に活用されています。

コネクテッドロジスティクスのページへリンク

●AI/画像認識技術

AI(人工知能)は、これまで人間にしかできないと言われてきた様々な物流作業を自動化させてきました。特にロボットによる対応が難しいと言われてきたのが、小さなものをつかむピッキング作業です。このピッキング作業も、画像認識技術とAIの技術革新により可能となりました。

画像認識型の倉庫内作業のページへリンク

●コネクテッド5G

超高速・低遅延・多接続(多数同時接続)という3つの特徴を持つモバイル通信規格の5G。この5G通信を使って、様々な機器がインターネットにつながっている世界が「コネクテッド5G」です。物流では、様々な機器をモバイル通信で連携するために活用されています。

コネクテッド5Gのページへリンク

●RFID

RFID(Radio Frequency Identification)は、ICチップに商品情報(商品名、価格、サイズ・色などのSKU、製造年月日や製造工場)を埋め込み、非接触で情報を読み書きできる電子チップです。RFIDの登場により、バーコードを読み取るような作業がRFIDに置き換わり、自動処理が進みました。

RFIDのページへリンク

●ブロックチェーン

「ブロックチェーン」とは、仮想通貨で使われている技術です。仮想通貨において、繰り返し取引される全取引の履歴を、暗号化して一本の鎖のようにつなぎ、正確な取引履歴を維持する技術です。このブロックチェーンを物流に活用しようという動きが出てきています。

ブロックチェーンのページへリンク

●需要予測システム

「需要予測システム」とは過去の販売実績データなどから市場の動向や販売数を予測し、在庫管理を支援するシステムです。時期や天気、市場状況、競合他社商品の売上状況といった外部データを加味した上で予測するケースもあります。

需要予測システムのページへリンク

●無人宅配

「無人宅配」は、自動運転ロボットやドローンにより無人で商品をお客様宅へ配達することです。自動運転ロボット自体は、既に倉庫内や飲食店の配膳などで実用化されていますが、公道を走行する上でクリアすべき法的問題が残っています。ドローン宅配も離島などでは実用化されていますが、都心などの人の密集した場所での安全対策といった法的な課題が残っています。

ラストワンマイルの無人化のページへリンク

●AIターミナル

「AIターミナル」とは、AI(人工知能)を活用して港湾のコンテナターミナルのオペレーションを最適化しようとする取り組みです。2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」に盛り込まれた、「世界最高水準の生産性と良好な労働環境を備えるAIターミナル」でその方向性が示されています。

AIターミナルのページへリンク

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